クロスボーダーM&A 完全ガイド 2025年版

クロスボーダーM&A最前線、手法やメリット・デメリット、流れを具体的に解説

【2025年版】

 クロスボーダーM&Aとは、国境を越えて実施するM&Aのことを指します。つまり、国内企業と海外企業によるM&Aです。日本国内のM&Aと異なる点も多いクロスボーダーM&Aのメリットや手順、成功のポイントを含む実務を弊社クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門にて完全解説します。

 クロスボーダーM&Aの実施を検討されている方は是非とも参考にしてください。




1. クロスボーダーM&Aとは

 クロスボーダーM&A(Cross-border M&A)とは、国境を越えて行う合併や買収のことで、海外企業が関わるM&Aであり、クロスボーダーM&Aは、企業が国際市場において成長を追求し、競争力を強化するための戦略的手段です。ビジネスにおいては国際間の取引という意味となります。日本企業においては国内市場の成熟化や人口減少に伴う需要低迷が顕著であるため、海外への進出が不可避となっており、クロスボーダーM&Aを活用するケースが増加しています。クロスボーダーM&Aは企業がグローバル展開をする手段として注目されており、クロスボーダーM&Aを採用する理由として昨今多くなっているのは、時間を買うという目的が多いです。自社のみで、一から海外進出を検討した場合、クロスボーダーM&Aを行う場合と比較して、海外でビジネスをするための経験・ノウハウやオフィス準備、人材採用・人材確保などの時間を多く要することになり、スピード感をもったビジネス展開が難しくなります。よって、クロスボーダーM&Aにて、海外で既にビジネスを行っている企業を買収できれば、まさに時間を買うことが可能となり、スムーズな海外展開が可能となります。

 実際、近年の日本企業によるクロスボーダーM&A(In-Out型のクロスボーダーM&A)は増加傾向にあり、東南アジアの高成長市場や欧米先進国の先端技術取得を狙ったもので、2018年には取引件数および成約金額が過去最高に達しました。また、日本国内ですでに成熟しているマーケットも、海外では未開拓であることが多く、クロスボーダーM&Aを通じて競合他社が少ないブルーオーシャンでビジネスを行うというのは、クロスボーダーM&Aは戦略的に他社との優位性を確保できる優れた手法となります。

 さらに、クロスボーダーM&Aの認知度が高まるにつれ、大規模案件に注目が集まり、企業間競争が激化しています。代表的な事例として、ソフトバンクによる英国の半導体設計会社アームのクロスボーダーM&Aや、三菱UFJフィナンシャルグループによるタイのアユタヤ銀行のクロスボーダーM&Aが挙げられます。これらのクロスボーダーM&Aは、国内市場の縮小を背景に、新興市場の成長機会を活用するための手段とされています。

 国内M&Aと異なる留意点や特徴が多いクロスボーダーM&Aについて、基本知識から実務の留意点にいたるまでの実務を完全解説します。


2. クロスボーダーM&Aの戦略的意義と主な目的

 企業がクロスボーダーM&Aを追求する背景には、以下のような戦略的意義があります。

クロスボーダーM&Aによるグローバル市場開拓とシナジー効果

 国内市場が成熟している日本企業にとって、海外市場への進出は持続的成長のための重要な手段です。クロスボーダーM&Aは、既存製品・サービスの市場拡大や、新たな顧客層の開拓を通じて売上増加を図ることができます。特に、現地企業の流通網や顧客基盤を迅速に活用することで、効果的に市場シェアを拡大できます​。クロスボーダーM&Aにより、海外市場への新規参入と市場シェアの獲得を効率的に実施することが可能となります。また、異なる文化や企業風土のグローバル企業と連携することにより、自社単体では創造できなかった商品開発やサービス向上ができ、海外企業とのシナジー効果によって日本市場での競争優位性の確保、差別化につながります。

クロスボーダーM&Aによる国際競争力強化および技術の獲得

 クロスボーダーM&Aにより、企業は先進的な技術、ブランド力、経営ノウハウなどを取り込むことが可能です。例えば、日本企業が米国や欧州の技術革新企業を買収することで、国内市場にはない最先端技術を自社の製品開発やサービス改善に活用するケースがあります。さらにクロスボーダーM&Aを行えば、大企業や中堅・中小企業は海外進出という自社のブランドイメージを向上させることができ、グローバル企業として認知されることが可能となります。グローバル企業としての地位やブランドは広告、マーケティング、リクルートなど様々な場面で有効に作用するため、このような効果を狙ってクロスボーダーM&Aを行う企業も増加しています。

クロスボーダーM&Aによる海外人材および拠点の獲得

 昨今の人出不足や人件費の高騰により、企業の人材確保は年々困難になっています。このような傾向は、日本の少子高齢化により長期的に続くと見込まれており、現在から将来にわたる企業活動に深刻な影響を与えています。クロスボーダーM&Aにより、海外進出ができれば海外の優秀な人材や人員の確保が可能となります。また、一から海外拠点を立ち上げる手間が省けるため、クロスボーダーM&Aによって時間を買い、スピード感をもった企業活動が行えます。さらに、長くその地域でビジネスを行っている会社は、その地域における政府、銀行、顧客から高い信頼を得ているケースが多く、ビジネスにおける様々な場面で恩恵を享受することが可能です。一から海外拠点を立ち上げる場合、シェアオフィスを利用し続けるなど、自社オフィスを構えないケースも多く、やや信頼感に欠けるケースが散見されます。よって、クロスボーダーM&Aを通じて、信頼感のある地場企業を買収し、他社との差別化を行う企業も増加しています。

クロスボーダーM&Aによるリスク分散と収益安定化

 クロスボーダーM&Aによって、事業展開を各地域に分散することが可能となり、特定市場での経済変動や政治リスクの影響を軽減できます。異なる市場での収益を組み合わせることで、企業全体のリスクを分散し、収益の安定化を図ることが可能となります。持続可能な経営を行っていくうえで常に起こりうるリスクに備える必要があり、クロスボーダーM&Aを実施することによって、当該リスクを低減することができます。


3. クロスボーダーM&Aに伴う課題とリスク

 クロスボーダーM&Aはその複雑性から、国内M&Aとは異なる特有のリスクが存在します。様々なリスクが潜んでいますが、そのパターンを整理すると、下記の3つの区分に分類することができます(特にIN-OUT型のクロスボーダーM&A特有の論点)。

 分類1-1:買うべきではない会社を買収してしまうケース(オリジネーションのフェーズで、しっかりとしたクロスボーダーM&A対象選定ができていない)

 分類1-2:買うべきではない会社を買収してしまうケース(クロスボーダーM&A対象選定は慎重に行われたものの、デューデリジェンスの過程で問題が見過ごされた)

 分類2:買うべき会社であったが、適正価格を大幅に上回る高値で買ってしまうケース(投資回収の問題)

 分類3:買うべき会社を適正価格で取得したが、買収後のPMIに失敗するケース

 その他、クロスボーダーM&Aには下記のようなリスクが潜んでいます。

クロスボーダーM&Aに伴う会計基準、税制、法規制の相違

 クロスボーダーM&Aを行う場合、各国の異なる会計基準、税制、法制度に従う必要があり、これらの要件を適切に把握し、遵守することが取引の成功に不可欠です。例えば、クロスボーダーM&Aの買収対象国が厳格な環境規制を有する場合、土壌や水質の汚染が発生すると巨額の罰金や賠償金が科せられることがあります。事前に環境デューデリジェンスを実施し、リスクの特定と対策が重要です。また、対象国によっては、二重帳簿や三重帳簿などコンプライアンス上の問題が潜在しているようなケースが散見されるため、クロスボーダーM&Aの際には対象企業のリスクを網羅的に調査することが重要となります。

クロスボーダーM&Aに伴うカントリーリスク(政治・地政学リスク)

 進出する国のカントリーリスク(政治的・地政学的な環境)を理解することがクロスボーダーM&Aを成功に導く重要な事項となります。政権が交代することにより、対象企業が置かれる状況が変化する可能性があるため、クロスボーダーM&Aを実施する前にリスク管理として対象国のリサーチが必要です。ただし、政情が不安定な国においては、数年後の見通しが難しい場合が往々にしてあるため、現地の情勢に詳しい外部専門家のアドバイザリーサービスを受けることを推奨します。政治的・地政学的な環境以外にも外資規制の調査が必要になります。外資規制とは、外国貿易法などを用いた外国人または外国企業による、国内の企業への投資に対する規制のことであり、対象国および対象業種によっては株式の過半数の保有が制限されているケースもありますので注意が必要です。

 また、気候変動や自然災害に伴うリスクもクロスボーダーM&Aを実施する際に留意すべき事項となります。日本は災害大国とも呼ばれていますが、地震や台風被害による災害リスクはクロスボーダーM&Aの対象国でも同様にみられるケースがあるため、クロスボーダーM&Aを実施する前に対象国のリサーチをする必要があります。

クロスボーダーM&Aに伴う文化および経営スタイルの相違

 クロスボーダーM&AにおけるPMIは、組織文化や労働慣行の違いから問題になるケースが散見されます。異文化間でのPMIがうまくいかなければ、従業員のモチベーション低下や退職、経営効率の低下を招くリスクがあります。これに対処するためには、クロスボーダーM&A前後に現地のマネジメントチームと密接に協力し、文化的適応を促進する取り組みが必要となります。日本国内のM&Aと同様に言葉や文化は違えど、これまで別々の会社同士であったものがひとつとなり、一致団結して目標に向かうためには、お互いの言葉や文化を理解していかなければいけません。PMIが成功するかでクロスボーダーM&Aが成功するかが決まるといっても過言ではありませんので、自社のみで対応が難しいということであれば、PMIに精通している外部専門家のアドバイザリーサービスを受けることを推奨します。

クロスボーダーM&Aに伴う為替リスク

 クロスボーダーM&A後に対象企業を含めた連結財務諸表を作成する必要がありますが、対象企業の財務諸表は為替レートの変動により影響を受けるため、為替リスク管理が不可欠です。当該為替リスク管理としては、為替ヘッジなどの手段を講じることでリスクを低減することが可能となります。また、昨今の円安影響により譲渡価格が割高になり、クロスボーダーM&Aを敬遠される企業が散見されますが、クロスボーダーM&A後は現地通貨を円に換算して連結財務諸表を作成するため、効率的に収益を増加させられるケースが多いです。また、対象会社を起点としてビジネスの拡大を行えるため、日本マーケット以外に効率的にリーチすることが可能となります。


4. クロスボーダーM&Aのプロセスと成功の要因

 クロスボーダーM&Aを成功させるためには、慎重な計画と実行が必要です。

クロスボーダーM&Aを成功させるために、買収後どのように経営するかを慎重に検討する

 クロスボーダーM&Aの成功を握る大きな分岐点が、買収後のPMIです。PMIは、ポスト・マージャー・インテグレーションの略記で、M&A成立後に実施される経営統合のプロセスを指します。クロスボーダーM&Aの成功は、このPMIの実施に大きく依存しています。これは、買収先と買収充の両方の経営質を最大限に生かすための経営プランとしての力量の投入が必要であり、PMIの重要性はシナジー効果を最大化するというメリットにあります。クロスボーダーM&Aは、実行されるだけでは目的を達成できません。買収先の事業との統合が成功することで初めて、買収の本質が生きるのです。PMIを逆手にしてしまえば、買収先の最大の力を発揮できず、場合によっては買収自体が失敗するリスクさえあります。

 もちろん国内企業のM&Aにおいてもこれはとても重要な論点ですが、IN-OUT型のクロスボーダーM&Aにおいては、買収戦略の立案フェーズの入り口から慎重な検討が必要となります。理由としては、クロスボーダーM&Aの対象企業となる海外企業の経営は、ほとんどの日本人には荷が重いという現実があるためです。よって、PMIのための重要なポイントを紹介します。

・クロスボーダーM&A対象企業・事業の経営陣は信頼できる人か

・クロスボーダーM&A対象企業・事業の経営陣は買収後に一定期間(2年程度)関与可能か

・クロスボーダーM&A対象企業・事業の経営陣のモチベーションを維持しつつ、相当期間の経営関与にコミットできる仕組み(報酬、キャリアなど)を構築できるか

・クロスボーダーM&A対象企業・事業の経営陣が退任するタイミングで後任となる人材を有しているか

・クロスボーダーM&Aによるシナジー創出のために、親会社側から十分なサポートを提供できる体制を有しているか(現地に本社役員・幹部クラスを送り込めるか)

 上記のポイントを検討しつつ、クロスボーダーM&A戦略を立案することで成功に近づくことが可能となります。

 また、上述したクロスボーダーM&Aの対象企業となる海外企業の経営は、ほとんどの日本人には荷が重いという現実ですが、背景として日本企業は昨今、ジョブ型採用や積極的な転職など働き方に変化がみられてきていますが、過去は終身雇用制、生え抜き経営者、労働生産性が高くないなどといった、日本流経営によって経済を発展させてきました。このような日本独自の経営方針は、日本の外からみるとミステリアスという表現で語られることがあり、極めて特異な環境で成長を遂げてきたといえます(裏を返すとOUT-IN型のクロスボーダーM&Aでも日本の経営は日本人でないと務まらないところがあるのと同じ理論です)。そのような環境下で仕事をしてきた人材がいきなり文化、言語、商慣習が異なる異国の地でクロスボーダーM&Aの対象企業をハンドルできる人材は多くはない現状を鑑みると、クロスボーダーM&A後も対象企業の現経営陣のサポートを受けつつ、PMIを図ることが重要となります。もちろん外部から新たな経営人材を連れてくるのも手段の一つとなりますが、スピード感をもったPMI、という目的を鑑みると前者の方法を採用する企業が多いのが現状です。具体的には経営は現地経営者に裁量権を与えて、事業計画、大型投資、経営者の人事評価や報酬などは本社に決裁権を持つ、そして、会計税務などの「お金」に関することはCFOを日本から派遣したり、現地の外部専門家のアドバイザリーサービスを受けるなど手法を採用する企業が多いです。

PMIの流れと順序

 PMIの流れは、大きく分けて以下の順序に基づきます。

1. 成立前準備

 PMIの準備は、M&Aの検討に着手する段階から始まっているのが理想的です。成立前には、買収先の現状を水面下で深く調査し、情報を深層的に分析しておくことが重要です。これにより、実現可能な経営統合の方針や問題点が明確になります。具体的には、ビジネスデューデリジェンス、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、人事デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、環境デューデリジェンスによる確認が含まれます。これらを通じて、買収先の長所を最大限に活用するための準備を整えます。

2. ディスクローズ

 M&A成立後には、関係者への情報公開が重要です。この段階では、ステークホルダーや従業員に対して統合戦略や方向性を明確に伝える必要があります。例えば、買収の目的やシナジーの実現可能性、組織統合の計画などを説明し、不安の解消と信頼の醸成を図ります。

3. 現状把握

 PMIを進める上で、買収先の現状把握は欠かせません。経営状態、組織文化、業務プロセス、ITシステムなどを詳細に分析し、統合に向けた課題と機会を洗い出します。この段階では、関係者との対話や現地訪問、詳細なデータ分析を通じて、問題点とその解決策を特定します。

4. 100日プランの作成と実行

 M&A成立後の初期的な100日は、PMIの成否を分ける重要な期間です。この期間には、以下の具体的な活動が含まれます。

  • 組織構造の再編成

  • 優先課題への迅速な対応

  • 経営陣間の信頼構築

  • 短期的なシナジー効果の実現

 特に、意思決定の迅速化や重要な指標(KPI)の設定とモニタリングが重要です。この段階では、具体的な成果を示すことで、買収先と買収充の双方の信頼を得ることが求められます。

5. 実行計画の作成と実行

 100日プランに基づいて、長期的な統合計画を策定し、それを実行に移します。これには、リソースの適切な配分や進捗状況の定期的なレビューが含まれます。また、計画の実行度を確保するため、専用のPMIチームを編成し、責任の明確化を図ることが重要です。

6. モニタリング

 統合計画の実行後も、成果を継続的にモニタリングすることが重要です。具体的には、以下のような活動が含まれます。

  • KPIの定期的なレビュー

  • 組織文化の調和状況の評価

  • 新たな課題への対応策の立案

戦略立案と目的設定

 企業は、クロスボーダーM&Aを行う明確な目的を設定し、その目的に基づいてターゲット企業を選定します。事業戦略に合致したターゲット企業を見極めるため、詳細な市場分析が求められます​。

デューデリジェンスの徹底

 クロスボーダーM&Aを行う際に買収候補企業の財務状況、法務、税務、環境リスクに関する詳細な調査を実施し、潜在的なリスクを把握します。この段階では、対象企業が抱える問題を特定し、取引の条件に反映させることが重要です。


5. クロスボーダーM&Aの国別解説

シンガポール【クロスボーダーM&A】

1. シンガポールにおけるクロスボーダーM&Aの動向(2023年)

 東南アジアへの事業展開を考える日本企業において、シンガポールの地場企業の買収は、非常に重要な戦略的な位置づけとなっております。これは、東南アジア全体における日本企業のシンガポールにおけるクロスボーダーM&A比率(見込)が過半数に近いことが物語っています。背景として、クリーンな事業環境と政治体制を持つシンガポールは東南アジアのゲートウェイとして認知されており、外資規制も一部の業種を除きほとんどないことから、東南アジア展開の初めの第一歩として、選ばれていることが挙げられます(クロスボーダーM&A候補先になりやすい)。

2. シンガポールのクロスボーダーM&Aの特徴

 シンガポールのクロスボーダーM&Aの特徴は、日本と似ており、後継者の不在による事業継承問題から企業売却を考えるケースが多いことが挙げられます。子供を持たないことを選ぶ家庭や、子供が事業承継を望まないケースが日本同様に増えており、今後もクロスボーダーM&Aマーケットにおける、この傾向は続くとものと考えられます。弊社はシンガポール現地企業側につく、クロスボーダーM&Aアドバイザリーサービスを提供していますが、その中で現地企業と対話をする中での肌感覚レベルで上記のことを実感をしています。クロスボーダーM&Aを成立した現地企業オーナーの「会社という自分の子供が、自分の手から巣立ってしまったような気持ちだ」と少し寂しそうな声で教えてくれたことがあります。
 利益が出ていても、やむにやまれぬ理由で売却にいたる企業オーナーの心情を理解することも、クロスボーダーM&Aを実行する上で大切な要素と言えます。

3. シンガポールのクロスボーダーM&Aメリット

 以下の3つがシンガポールにおけるクロスボーダーM&Aのメリットと言えます。

  • シンガポールの魅力的な税制(法人実効税率17%)

  • 外資規制の少なさ

  • 安定した政治

 シンガポールはASEAN各国の中で、一番国土の小さな国でありながら、日系企業のクロスボーダーM&A件数が群を抜いて大きいというデータもあり、日系企業のシンガポールにおけるクロスボーダーM&Aの期待度の高さが伺えます。
(当然、クロスボーダーM&Aにおいては、現地企業と買い手企業との間でシナジーを生み出せるかどうかが最も大事なポイントです。)


ベトナム【クロスボーダーM&A】

1. ベトナムにおけるクロスボーダーM&Aの件数推移

 ベトナム計画投資省(MPI)が公表しているデータによると、2019年海外からの資本拠出や株式買収(クロスボーダーM&A)の件数は9,842件ありました。登録資本の合計額のうち株式買収額の割合は年々増加傾向にあり、2017年は17.2%、2018年は27.9%、2019年は40.7%と増加傾向にあります。韓国、シンガポール、中国といった国からも多くの投資を集めているベトナムですが、日本企業は企業イメージの良さを理由に、その中でもベトナム現地企業から人気のある国です。日本の技術を取り入れたい、日本企業ならクロスボーダーM&A後も文化的な衝突がないと考えるベトナム企業は多いです。

2. ベトナムのクロスボーダーM&A特徴

 ベトナムのクロスボーダーM&Aの特徴は、急速な国の成長に合わせて、会社を成長させるための「事業拡大」目的のクロスボーダーM&Aがベトナム案件には多いのが特徴と言えます。例えば、弊社の過去のクロスボーダーM&A売り案件リストの一つに、ハノイの物流会社がありますが、やはり事業拡大資金を得るためのクロスボーダーM&A(売り側)です。また、ベトナムは若い国なので、あまりイメージがないかと思いますが、二代目以降の引退案件が少なくありません。キャッシュアウト(現金化)し、家族とカナダ移住をしたいので、会社を売却するという事例もありました。日本人も会社売却により、若くして経済的に成功を収めた方が海外移住するケースがありますが、それと同じような現象と言えます。特筆すべき特徴として、ベトナムは二重帳簿が当たり前のように存在します。二重帳簿をしていない企業はほぼないと言っても過言ではありません。

 M&A(買収)を決定したはいいか最後の最後で二重帳簿が発覚し取り返しのつかないことにならないように、弊社は売り側の企業と信頼関係を築き、状況をきっちりと把握した上で、弊社の案件として取り扱っています。

3. ベトナムのクロスボーダーM&Aのメリット

 一言で言えば、ベトナムの国としての伸びしろがベトナムクロスボーダーM&Aのメリットです。

  • ベトナムは人口約9,500万人で増加傾向

  • 平均年齢は31歳と若い

  • インフレ率は2017年 3.52%, 2018年 3.54%, 2019年 3.60%と安定して上昇しており、お金より物の価値が年々高くなる傾向にあるため貯金するよりもお金を使う方が経済合理性がある

 高度経済成長期の日本が、今のベトナム経済です。そのような国で事業をやることの意義が、ベトナムクロスボーダーM&Aのメリットです。


インドネシア【クロスボーダーM&A】

1. インドネシアにおけるクロスボーダーM&Aの件数推移

 2019年7月-12月におけるインドネシアのクロスボーダーM&A件数は17件でした。ASEAN全体では162件ですので約10.5%がインドネシアということになります。金額ベースで見た場合は、約USD41.2億とASEAN全体の約18.4%を占めています。

2. インドネシアのクロスボーダーM&Aの特徴

 インドネシアはどちらかと言うと自国保護が強く、規制の壁が高いと言えます(JETROが発表しているネガティブリスト)。シンガポールなどの国と比べた場合、法整備も発展途上ですので、公的機関とのコネクションなどもスムーズに話を進めていく上で、まだまだ重要な部分です。

 外国人だと上手くいかなったことが、現地パートナーがどこかに電話一本を入れると一気に手続が片付いた、なんてことも実務上、頻繁にある国です。

3. インドネシアのクロスボーダーM&Aのメリット

 インドネシアのクロスボーダーM&Aのメリットは何と言っても世界第4位の人口でしょう。経済発展に伴い中間所得者層も増加し、国内消費が非常に活発です。親日的な国で、日本ブランドや日系企業へのイメージも非常に良いです。相対的な賃金の安さから、生産拠点としても魅力があります。


タイ【クロスボーダーM&A】

1. タイにおけるクロスボーダーM&Aの件数推移

 2024年第3四半期のM&A活動は、ディール金額、ディール件数ともに増加した。 67億米ドルの大型国内メガディールがディール金額を17億米ドルから84億米ドルに増加させた。 一方、ディール件数は44件から76件へと72.7%増加した。 しかし、メガディールを除いた平均ディールサイズは、2024年第2四半期の3,915万米ドルから2024年第3四半期の2,519万米ドルへと35.7%減少した。 インバウンド案件は29件、国内案件は42件、アウトバウンド案件は5件で、それぞれ当四半期のディール総額 の41.8%、57.5%、0.7%を占めた。 最もディールが活発であったセクターは、通信、メディア、テクノロジーで、9件のディールがディール総額 の83.2%を占めています。

 ※Source: KPMG

2. タイのクロスボーダーM&Aの特徴

 ITやデジタルサービス、再生可能エネルギー、製造業など、新興企業や成長分野への投資が増加しています。特にIT業界はコロナ禍を経て急成長しており、デジタルサービスやSaaS企業への投資が目立ちます。また、タイでは外国企業に対する規制が厳しく、特にサービス業では外国人の持株比率が制限されています。製造業は比較的規制が緩いですが、事業内容によってはサービス業として扱われることもあるためクロスボーダーM&Aの際には注意が必要です。

3. タイのクロスボーダーM&Aのメリット

 タイのクロスボーダーM&Aのメリットとしては下記の4つが挙げられます。

・市場拡大と成長機会の確保:タイは東南アジアの中心に位置し、ASEAN諸国へのゲートウェイとして機能します。M&Aを通じてタイ市場に参入することで、ASEAN全体の成長市場へのアクセスが可能となり、地域的な事業拡大が容易になる。

・成熟した産業基盤と多様なセクター:テクノロジー分野ではデジタル経済の成長が著しく、AIやデータセンター関連のM&Aが活発化している。

・観光業と消費市場の成長:観光業の回復と消費者信頼感の向上によって、タイ国内の消費市場が拡大、観光業関連セクター(ホテル、不動産など)が魅力的な投資対象となっている。

・税制上の優遇措置:タイ政府は特定のM&A取引に対して税制上の優遇措置を提供、例えば、合併や事業譲渡の際には、法人所得税、付加価値税、特定事業税、印紙税の免除などの恩恵を受けられる可能性がある。


6. クロスボーダーM&Aの弊社支援実績

 クロスボーダーM&Aの弊社支援実績を紹介します(開示可能な事例を抜粋)。

国分グループによるシンガポール食品卸売事業会社San Sesan Global社の株式取得に際して売手アドバイザーとして支援

 国分グループは、第11次長期経営計画において海外事業の「基幹」事業化を掲げており、アセアン事業はその柱の1つです。アセアンエリアにおける経済、物流、情報の中心であるシンガポールは、当社アセアン事業の中核地と位置付けています。現在、同国においては、アセアン統括会社であるKOKUBU Singapore社、食品卸売事業会社であるKOKUBU Commonwealth Trading、低温物流会社であるCommonwealth KOKUBU Logisticsが事業を展開しており、アセアン地域と日本をつなぐ食のネットワークの構築に向けた体制の強化を推進しています。今般、シンガポール卸売事業をより強固な体制にすることを目的に、San Sesan Global社の株式を取得致しました。
 シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、 
San Sesan Gobal社側の売手アドバイザーとして、株式売却のアドバイス及び実行支援(クロスボーダーM&A支援)を提供しました。

 国分グループリリース:https://www.kokubu.co.jp/news/2024/detail/0805100000.html

 PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000139201.html


株式会社カナミックネットワークによるTHE WORLD MANAGEMENT PTE LTDの株式取得に際して売手アドバイザーとして支援

 カナミックネットワークグループは、今後の成長戦略としてM&Aを積極的に推進し、ヘルスケア分野、保険サービス分野、リアル店舗からITサービスまで、事業ポートフォリオの拡大を掲げており、このたび、主に販売管理や在庫管理、会計管理などのバックエンドシステム導入コンサルティングサービスを提供しているTWM社の株式を取得しました。TWM社のバックエンドシステムと、カナミックネットワークグループが保有するフロントエンドシステムの開発力を組み合わせることにより、TWM社の顧客をはじめとするシンガポールの企業に、総合的なITシステムを提供することが可能になります。また、シンガポールを拠点にASEAN諸国をはじめとした東南アジアへの展開も見込んでおり、今回のTWM社の株式取得は、カナミックネットワークグループの成長戦略『カナミックビジョン2030』の「Phase4:海外展開」への本格的な着手ともなります。

 シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、THE WORLD MANAGEMENT PTE LTD社側の売手アドバイザーとして、株式売却のアドバイス及び実行支援(クロスボーダーM&A支援)を提供しました。

 カナミックネットワークリリース:https://ssl4.eir-parts.net/doc/3939/tdnet/2514343/00.pdf


ラバブルマーケティンググループの東南アジア地域でのクロスボーダーM&Aを包括的に支援

 日本国内においてSNSマーケティング事業を行っているラバブルマーケティンググループ、海外事業の立ち上げおよび拡大(クロスボーダーM&Aを含む)を成長戦略のひとつに掲げており、東南アジアに進出する企業のマーケティングの支援と東南アジアからのインバウンド需要の獲得を目的として2023年3月に、タイの現地法人であるDTK AD Co.,Ltd.の発行済み株式の49%を取得し、子会社化することを決定しました。
 シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、
ラバブルマーケティンググループがDTK AD Co.,Ltd.を買収する際の包括的な実行支援を提供しました。

 ラバブルマーケティンググループリリース:https://lmg.co.jp/news/information_20230322/


NTTデータ先端技術株式会社と印・AlgoAnalytics社との資本業務提携を支援

 NTTデータ先端技術株式会社は、多数のデータサイエンティストを有し、機械学習技術をベースにAI全般を強みとするAlgoAnalytics Pvt. Ltd.と、先進技術領域における取り組みの拡大に向けた資本業務提携を行うことで2023年5月16日に合意しました。
 シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、
両社の業務資本提携におけるアドバイス及び実行支援を提供しました。

 NTTデータ先端技術株式会社リリース:https://www.intellilink.co.jp/topics/news_release/2023/051600.aspx


結論:今後の展望と戦略的提言

 クロスボーダーM&Aは、企業が国際市場での競争力を維持し、成長を追求するための重要な戦略となり続けるでしょう。特に、デジタル技術の進展に伴い、IT分野でのM&A案件が増加する見通しです。しかし、クロスボーダーM&Aは国内企業同士のM&Aと比べて、PMIの難易度が高くなる傾向が多く、これは言語、法律、商慣習、文化などの様々な生活・ビジネス環境が異なる企業同士がを行うため、時間を要するケースがあります。企業がクロスボーダーM&Aを成功させるためには、事前の徹底したデューデリジェンス、譲渡企業と譲受企業の密なコミュニケーションの実施などが不可欠です。また、現地情報に精通した外部専門家のアドバイザリーサービスを事前に受けるなどの対応も求められます。

 弊社では、シンガポールはもちろんのこと、東南アジアの売り案件を取り揃えております。東南アジアへのM&Aという手法を使っての、進出、事業拡大にご興味のある日系企業様、「買い」側のM&Aアドバイザー様はお気軽にご連絡をください。弊社のクロスボーダーM&Aアドバイザリーサービスをご利用いただくことで、クロスボーダーM&Aを進める際、「売」企業様とのコミュニケーションが日本語で可能です。

(注)上記記述は、その内容を弊社が保証するものではありません。詳細、最新情報は弊社までお問い合わせください。

監修:クロスボーダーM&Aアドバイザリー部門

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