クロスボーダーM&A 完全ガイド PMI編【2025年版】
クロスボーダーM&A最前線、PMIとは?M&A成功の鍵を握る海外経営統合プロセスの全て
PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に行われる経営統合プロセスを指し、M&Aの成功の鍵を握る重要なプロセスです。M&Aを実施しただけでは期待する効果は得られず、PMIを通じて初めて企業価値の向上やシナジー効果の創出が実現します。本記事では、PMIの基本概念から実施方法、成功のポイントまで、クロスボーダーM&A後の経営統合プロセスについて包括的に解説します。
クロスボーダーM&A(Cross-border M&A)とは、国境を越えて行う合併や買収のことで、海外企業が関わるM&Aであり、クロスボーダーM&Aは、企業が国際市場において成長を追求し、競争力を強化するための戦略的手段です。ビジネスにおいては国際間の取引という意味となります。日本企業においては国内市場の成熟化や人口減少に伴う需要低迷が顕著であるため、海外への進出が不可避となっており、クロスボーダーM&Aを活用するケースが増加しています。クロスボーダーM&Aは企業がグローバル展開をする手段として注目されており、クロスボーダーM&Aを採用する理由として昨今多くなっているのは、時間を買うという目的が多いです。自社のみで、一から海外進出を検討した場合、クロスボーダーM&Aを行う場合と比較して、海外でビジネスをするための経験・ノウハウやオフィス準備、人材採用・人材確保などの時間を多く要することになり、スピード感をもったビジネス展開が難しくなります。よって、クロスボーダーM&Aにて、海外で既にビジネスを行っている企業を買収できれば、まさに時間を買うことが可能となり、スムーズな海外展開が可能となります。
実際、近年の日本企業によるクロスボーダーM&A(In-Out型のクロスボーダーM&A)は増加傾向にあり、東南アジアの高成長市場や欧米先進国の先端技術取得を狙ったもので、2018年には取引件数および成約金額が過去最高に達しました。また、日本国内ですでに成熟しているマーケットも、海外では未開拓であることが多く、クロスボーダーM&Aを通じて競合他社が少ないブルーオーシャンでビジネスを行うというのは、クロスボーダーM&Aは戦略的に他社との優位性を確保できる優れた手法となります。
さらに、クロスボーダーM&Aの認知度が高まるにつれ、大規模案件に注目が集まり、企業間競争が激化しています。代表的な事例として、ソフトバンクによる英国の半導体設計会社アームのクロスボーダーM&Aや、三菱UFJフィナンシャルグループによるタイのアユタヤ銀行のクロスボーダーM&Aが挙げられます。これらのクロスボーダーM&Aは、国内市場の縮小を背景に、新興市場の成長機会を活用するための手段とされています。
PMIとは何か
PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略称で、M&A成立後に行われる経営統合プロセスのことを指します。日本語に直訳すると「合併後の統合」という意味になりますが、ビジネス上ではM&A全般における統合効果を最大化させるために行う一連のプロセスを意味します。PMIは「経営の総合科目」と呼ばれるように、定量的な面だけでなく、人材や企業文化など定性的な面も考慮することでM&Aの成功につながります。具体的には「新経営体制の構築」「経営ビジョン実現のための計画策定」「協業のための体制構築」「ITシステム統合」など一連の取り組みを指し、M&Aによるリスクの最小化と、成果の最大化を目的としています。
PMIの本質を理解する
「PMIとは何か」という質問に対する最も簡単な答えは、「やろうと思えば何でもできる」といえるほど、PMIは幅広い概念です。PMIという名称自体が適切ではないため、混乱が生じることもあります。PMIはPost Merger Integrationの略ですが、それぞれの単語の本当の意味を理解することが重要です。「Post(後)」はM&A後に検討すべき活動と思われがちですが、それは誤りです。PMIはある意味、どんな案件を実行するか、その理由は何か、今後それをどう管理するかについて考える、事前の戦略段階から始まっているのです。また、「Merger(合併)」という言葉も限定的です。実際の「合併」は全M&Aの1割にも届かず、日本の大型案件の場合、現在は7割以上がインアウト案件で、海外企業の株式を取得するのが基本となっています。
「Integration(統合)」についても、統合の度合いはケースバイケースで変わってきます。統合には以下の3つのタイプが考えられます:
完全統合型PMI:買収した会社を完全に自社に取り込む
ベストプラクティス型PMI:買収した会社と自社の良いところを取り入れる
独立運営型PMI:買収した会社を独立させて運営する
最近のインアウト案件では3番目の独立運営型PMIが多く、その場合、対象国では他に統合相手がないケースがよく見られます。
PMIの目的
PMIの真の目的は、価値創出(Value Creation)にあります。具体的には、リスクを伴う買収対象事業が、その事業に支払うリスクフリーキャッシュと同じか、できればそれ以上の価値をもたらすように、必要なことを全てやりきることです。これを実現するため、PMIでは事業から得られるキャッシュ・フローを最大化しようとします(予定したシナジーや、それ以外に可能と思われるシナジーの実現を含みます)。また、重要な人材を引き止め、資産を保護し、適切なガバナンスや内部統制を実施することで、事業にかかわるリスクを低減しようともします。
M&Aにおけるシナジーの実現
M&Aにおいて想定されるシナジーを実現するためには、PMIが不可欠です。PMIを通じて両社の強みを融合し、新たな価値を創出することができます。一般的に、M&Aで期待できるシナジー効果としては、販売チャネルの拡大やクロスセルなどによる売上拡大、コスト削減や業務効率化、従業員の満足度向上などが挙げられます。しかし、こうしたシナジー効果を最大化するためには、現場担当者の前向きな協力や、取引先との良好な関係の維持が欠かせません。そのためPMIでは、「M&A後にいつ、どのようなトラブルが発生しそうか」「どのような成果を期待できそうか」を事前にしっかりと洗い出し、リスクの最小化・成果の最大化のための戦略を検討・実行することがPMIでは重要です。
M&Aにおける企業価値の最大化
PMIは、M&Aにおける企業価値を最大化する上で欠かせないプロセスです。M&Aを実施しただけでは期待する効果は得られず、PMIを通じて初めて企業価値の向上が実現します。効果的なPMIの実施により、以下のような効果が期待できます:
スムーズな組織統合
業務効率の向上
企業文化の融合
人材の効果的な活用
シナジー効果の最大化
また、PMIは長期的な取り組みであるがゆえに、両社の経営者同士はもちろん、買い手企業の経営者⇔売り手企業の担当者や、両社の担当者同士での強固な信頼関係や、現場担当者のモチベーションを高く維持し続けることが重要です。
PMIの失敗がもたらす影響
PMIの失敗は、M&A全体の失敗につながる可能性が高いです。統計によると、PMIの成功率は約30%、PMIの失敗によるM&A失敗率は約70%と言われています。PMIが適切に行われない場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります:
業務・経営上の混乱と内部対立の顕在化
社員の反発や離職
想定した統合の効果が得られない
予定どおりに統合が進まないことによる業績悪化
会計処理が異なることによる財務諸表の作成遅延
これらのリスクを排除し、想定どおりの経営統合を推し進めるために、PMIはビジネス上の重要な役割を担っています。
PMIはいつから準備を始めるべきか
PMIには「定石(セオリー)」があり、正しく取り組むことが成功への鍵となります。PMIは、M&Aの検討を始めると同時に準備を始めるのが理想的です。ここで注目すべきは「PMIは成約する前から準備が必要である」点です。果樹を育てる時を想像してください。種をまき、苗を植える前に、適切な栽培方法を確認したり、土づくりなどの事前の準備を行ったりするでしょう。M&Aにおいても同様です。M&A成約前のデューディリジェンスでは、財務や法務的な観点から問題点の有無を確認し、M&Aの実行を検討します。その際に、PMIを進める上で問題になりそうな事柄も洗い出しておくことが、成約直後から円滑にPMIを推進するための重要なポイントになります。
また、デューディリジェンスの段階から相手方経営陣と接触しているということも忘れてはなりません。この時点では、状況の理解や疑問の解消に追われている場合が多く、この会社が自分たちのグループの仲間入りをするとはなかなか認識できないかもしれませんが、デューディリジェンス中の行動や態度が相手方の印象を形づくり、それが将来的な経営体制の維持に影響を与える可能性があります。
PMIの実施期間
前述の通り、PMIはM&A成約前から準備を始める必要があります。また、期待していたシナジー効果が創出できるまで、平均として成約から1年はかかるため、PMIは長期的な取り組みであるといえるでしょう。PMIは長期的な取り組みであるがゆえに、ごまかしが効きません。両社の経営者同士はもちろん、買い手企業の経営者⇔売り手企業の担当者や、両社の担当者同士での強固な信頼関係や、現場担当者のモチベーションを高く維持し続ける、といった土台がPMIでは重要です。そのため、M&A実行の意義、両社が目指す未来を繰り返し伝えたり、双方向で積極的なコミュニケーションを継続したり、初期に結果を出すための取り組みを考えるなど、様々な工夫がPMIでは必要になります。
PMIを成功させるためには、以下のようなプロセスで進めることが重要です。
Ⅰ. M&Aの方針決定
PMI実施にあたっては、M&Aをどのように進めていくのか、その枠組みを検討します。具体的にどのような手順、スキームによってどの程度の期間で実施するかを検討します。代表的な枠組みは次の3つです:
独立型統合:対象企業を子会社として残し、経営の自主性を維持させる統合形態
支配型統合:対象企業を子会社として残す一方で、経営に積極的に関与する統合形態
吸収型統合:対象企業に対して吸収合併や吸収分割、事業譲渡といった手段を用いて自社に吸収し、一体化を図る統合形態
独立型統合とは、買収された会社を独立した会社として存続させ、自主性を維持する統合方針をいいます。買収側の会社と同業ではなく、かつ、業績が良いケースにこの枠組みが利用されるケースが多いです。関与割合が低く、買収された会社の独立性も維持されるため、従業員からの抵抗感は少なくなります。
Ⅱ. デューデリジェンスと現状把握
デューデリジェンスの徹底もPMI成功に不可欠です。デューデリジェンスとは、M&Aの対象企業に対して詳細な調査を行うことを指します。従業員発表後は、成約前には接触することができなかった売り手企業の役員や実務担当者へインタビューを行い、企業の現状をより詳細に把握していきます。このステップは、目指す姿と現状とのギャップを把握するための非常に重要なプロセスです。PMIの初期段階において大切なことは、M&Aによる混乱の発生を防ぎ、売り手企業のビジネスを従来通り動かすことです。そのため、役員や実務担当者へのインタビュー等を通じて「売り手企業における現在のビジネスがどのような仕組みや役割分担によって動いているのか?」を正確に把握し、売り手企業におけるビジネスの肝を見極めていくことが重要です。同時に、M&A実行の発表を聞いた際の率直な思いや不安に感じていること、両社がグループとなったことで期待していること・挑戦してみたいことなどをヒアリングし、双方向でのコミュニケーションを続けながらお互いの理解を深め、信頼関係を構築していくことがPMIではとても大切になります。
Ⅲ. 経営統合計画(ランディングプラン)の策定
続いて、経営統合計画(ランディングプラン)を策定します。経営統合計画とは、クロージング(M&Aでの経営権の移転手続き)後に行う実施計画で、通常は3〜6ヶ月以内に実施します。買収元、買収先それぞれにおいて経営統合計画を立案し、主に事業面、管理面の見直しについて必要となる作業を計画に落とし込んで策定します。具体的には、事業面では原価や販売費、管理費の見直し、管理面では組織や規定、人事や労務、経営管理や経理、庶務について行われるのが一般的です。
Ⅳ. 「100日プラン」の作成・実行
PMIにおける「100日プラン」とは、成約から3か月間で行うPMIの実行スケジュールを指します。取引先への挨拶や社員との個人面談の実施など、取り組みの優先順位が高いテーマを「100日プラン」としてスケジュール設定・実行していきます。M&A後に成長を実現するまでPMIの期間としては1年は最低でも見ておく必要があります。特に最初の100日間では「緊急度の高いテーマに取り組むこと」と、「その後の長期的な取り組みを支える体制づくり」が重要となります。多くの企業ではPMIを専任とする担当者を設置しておらず、既存の業務に加えてPMIの業務を行うことになります。そのため、売り手企業・買い手企業ともに実務担当者の業務負荷も考慮に入れ、無理のないPMIのスケジュール設定を行うよう注意しましょう。
Ⅴ. ディスクローズ(関係者への情報開示)
M&Aが成約した後は、関係者に対する情報開示(ディスクローズ)を行うことが求められます。この際、秘密保持契約を遵守しながら、適切なタイミングと方法で情報を公開することが重要です。特に売り手企業の従業員への発表においては、魅力や一緒になった理由、両社で一緒に目指していきたいと考えている "バラ色の未来"を伝えることはもちろんですが、それだけでなく、従業員の雇用の維持など、「M&A後も変わらないこと」も明言することが重要です。また、発表のタイミングや言葉選び、参加者について事前に両社で打ち合わせを行い、従業員へ不信感を与えないよう細心の注意をはらって行うことが大切です。なお、PMIにおいては買い手企業関係者の協力も不可欠です。社内に対しても提携の経緯や目的を十分に伝えるとともに、売り手企業担当者とのコミュニケーションを重視するあまりに買い手企業内でのコミュニケーションが疎かにならないよう、注意しましょう。
Ⅵ. 実行計画の作成・実行
100日プランの取り組み完了後は、100日プランに盛り込むことができなかった施策を中心とした実行計画を作成し、PMIに取り組んでいきます。現状把握の段階で、売り手企業の経営課題や、売上拡大・コストシナジーのための取り組みを一覧にして整理しておくと、100日プラン完了後にスムーズに対応を始めることができます。なお、対応すべきテーマや優先順位はプロジェクトによって異なりますが、いずれの場合もPMIは長期的な取り組みになるため、担当者のモチベーションを高く維持し続ける工夫が必要です。例えば、両社のPMI担当者に対して今回の提携の意義や目指す将来像を繰り返し伝え、「自分たちで必ず成長を実現させよう」という強い当事者意識を引き出すことや、成果の出しやすい取り組みを優先して行い、M&Aによる企業の成長を少しずつでも実感してもらうことも有効です。
Ⅶ. モニタリング(成果の測定)
作成した実行計画について、進捗状況のモニタリング(成果の測定)を行います。同時に、各取り組みを行う現場担当者のモチベーションや両社担当者同士の関係性についても確認し、対応が必要であれば打ち手を検討することが重要です。また成約から1年の節目を目安に、その時点での両社の関係性や各施策の取り組み応状況について振り返りを行い、さらなる成長に向けて対応方針や実行計画のブラッシュアップを行うことがPMIを実行していくなかで望ましいでしょう。
PMIでは以下のような項目について統合を進めていきます。
Ⅰ. 新経営体制の構築
提携後は新しい意思決定者や意思決定のプロセスを明確にする必要があります。もちろん、提携後は買い手企業側が最終的な意思決定権を持つことになるため、買い手企業から新経営者として派遣された人材が売り手企業に常駐し、売り手企業の意思決定を行うケースが一般的です。しかし、譲渡オーナー様が退任せず残られる場合や、買い手企業から人を派遣し常駐させられるだけの人員の余裕がない場合は、買い手企業の経営人材が売り手企業に常駐するのではなく、定期的な訪問や会議により状況を把握し意思決定を行うという方法をとることになります。なお経営体制を検討・構築するうえでは、一度決めた体制にこだわることなく、状況に応じて随時適切な体制にアップデートしていくなど柔軟な姿勢で対応することが重要です。
Ⅱ. 経営ビジョンの作成と実現のための計画策定
中小企業においては、経営ビジョンや経営戦略は「社長のみぞ知る」という状態になっており、言葉にして社員に共有されているケースは多くありません。そんな状況で、ある日突然M&Aの実行や社長の退任を知らされた社員は、「これから会社はどうなっていくのか」「これから何が起こるのだろうか」と不安や疑問に感じることも当然です。そうした社員の不安や疑問を解消し、両社が一枚岩となって施策に取り組んでいくためにも、「これからどのような未来を目指すのか。目指す未来を実現するために、どのような取り組みを行うのか」を全員に共有し、「一緒に頑張っていこう」と共感してもらうことが必要です。そのためにまず、両社のトップ同士で「10年後や5年後の会社の理想の姿」を話し合い、経営ビジョンを作成します。その後、ビジョン実現のためにできること・やらなければならないことを、両社の現場担当者の意見もヒアリングしながらまとめ、計画を作成していくことになります。
Ⅲ. 両社協業のための体制構築
成約後にシナジー効果を創出するためには、両社の現場担当者同士での密な連携が欠かせません。もちろん、人と一緒に仕事をする以上、お互いに気を遣いながら円滑に仕事を進めていこうとするでしょう。しかし、両社で大切にしている価値観が異なる場合、「お互い気を遣っているつもりが逆効果」ということになる場合がありますので注意が必要です。両社の現場担当者同士で協業していく際には、「お互いの大切にしている価値観や働き方を尊重したうえで、新しいルールを作ること」また、「取り組みを進める際は、5W1Hを明確にすること」を意識し、両社の"すれ違い"を防ぎながら、信頼関係を構築していくことが重要です。
Ⅳ. 業務オペレーション・ITシステムの統合
業務オペレーションやITシステムの統合はPMIにおける数多くの取り組みの中でも難易度の高い取り組みと言えます。というのも、業務効率化=自分の仕事がなくなってしまうのではないか、と不安に感じてしまう、業務フローを変更する=慣れるまでは従来よりも業務に時間がかかる・慣れるまでミスのリスクが高くなる、など特に実務担当者にとっては不安に・ネガティブに感じられてしまい、協力を得るのが難しい場合が多いからです。また、オペレーションの変更にともない、組織体制の変更も必要になるなど、全社を巻き込んでの改革となる可能性もあります。そのため両社での信頼関係が構築できるまでは拙速な取り組みは行うべきではありません。
Ⅴ. 経理・財務の統合
経理・財務の統合は、グループ全体としての適切な経営判断を行うために早急に行うべき重要な取り組みです。とくに上場企業とのM&Aの場合には、待ったなしで対応を進めていく必要があります。中小企業のPMIにて取り組むことの多い経理・財務の統合には、以下のようなものがあります:
経理体制の構築:中小企業においては、社長の奥様が経理業務を一手に担われているケースがよく見られます。その奥様がM&Aと同時に退任される場合、支払業務や給与計算、会計データへの入力等、日常業務に支障を来す恐れがあります。そうした事態を防ぐため、退任される方の業務を見える化(業務棚卸リストや業務フロー、マニュアルの作成)し、しっかりと後任に引継ぐことで円滑に業務が回るように対応することが重要です。
決算早期化・決算期統一:中小企業においては、月次決算が実施されているケースは多くはありません。迅速かつ適切な財務分析、意思決定を行うためには、タイムリーに決算内容を把握することは不可欠です。また、売り手企業と買い手企業の決算日が異なる場合、決算日の統一のための手続きが必要となる場合があります。
連結決算体制の構築:譲受企業が上場企業であった場合、売り手企業の決算数値を取り込んで連結決算を行う場合があります。その際、単純に両社の財務諸表を合算するだけでは内部取引が含まれた財務諸表になってしまうため、内部取引を相殺しなければなりません。
管理会計:M&Aを機に、新たな会計方針の設定や会計方針の見直しに伴い、KPI(重要業績評価指標)、業績管理、中期経営計画の策定、予算策定等を見直す、もしくは新たに整備する必要があります。
内部統制の構築:中小企業においては、経費精算、勤怠管理、各種申請に関わるルールや制度が未整備であり、都度オーナー社長が判断していることが少なくありません。M&Aにより上場企業のグループとなった際には、財務諸表監査、内部統制監査対象となることがありますので、内部統制上の3点セット(フローチャート、業務記述書、リスクコントロールマトリックス)を作成し、不正行為の防止、業務ミスの防止や効率化を図るための社内体制を譲受企業の監査レベルに合わせて、新たに構築する必要があります。
Ⅵ. 制度の統合
人事や総務、法務といった制度領域での統合も大切です。買収元・買収先企業の混乱や反発を想定しつつも、経営戦略やマネジメント、現場におけるノウハウの統合を意識して進めましょう。具体的には、両社の人事評価制度や報酬制度、教育制度、研修制度といったあらゆる制度についての精査や見直しが求められます。現場環境や各社員の働き方にまで落とし込んで、意見をすり合わせ、認識を一致させることが、経営統合を成功に導きます。
Ⅶ. 業績評価基準の再策定
PMIでは、効果検証と共に、期待した効果が現れない場合のフォローアップが重要です。既存の業績評価基準や仕組みを見直し、統合後の業績検証や改善案策定に役立てましょう。再策定では、KPIの設定やマネジメントサイクルの導入も有効です。測定結果をモニタリングし、改善のためのPDCAを継続的に回してください。改善を繰り返すことで精度が高まり、より充実したフォローアップに役立てられます。
Ⅷ. 事業内容や取引先の精査
経営統合にあたり、買収元・買収先の事業内容や取引先の精査と見直しをすることにも意義があります。利益やシナジーの大きさから選択と集中を繰り返し、精査していきます。両社の類似製品やサービスがある場合の統廃合や、仕入れ先が複数ある場合の絞り込みを視野に入れて判断することも重要です。事業内容や取引先の精査は、シナジー効果に直結します。精査の結果に基づいた業務計画立案や担当割り当てを実施し、より利益につながる統合を目指しましょう。
買い手側の心構え
失敗するPMIには必ず共通点があります。まず、買い手企業のPMI担当者が陥りがちな3つのワナと対策について解説します。
Ⅰ. 自社の"当たり前"の強要をしない
一般的に買い手企業は売り手企業と比べて企業規模も大きく、組織としての経営体制も整備されているケースが多く見られます。そのため、デューデリジェンスの結果や、売り手企業の実務状況を目の当たりにした際、自社と比較してしまうことは少なくありません。そうした際に、つい「〇〇ぐらいが普通だ」「これではダメだ」と無意識に発言してしまうことがあります。この発言や意識こそが、M&Aの成功を妨げる要因となるため注意が必要です。中小企業では「業務が属人的に行われている」「管理会計が導入されていない」「現金の取り扱いルールが定められていない」、こうしたことはよくある光景であり、むしろ完璧に対応できているケースはほとんど無いと言ってもいいでしょう。初期段階で「それではダメだ」「当社のやり方に合わせてください」と言われてしまっては、売り手企業側との信頼関係構築に影響を及ぼす可能性も少なくありません。企業の成長のために着手しなければならない改革も存在しますが、「なぜそれを行う必要があるのか」「その改革を行うことで、どのようなメリットがあるのか」をしっかりと売り手企業の方に伝えるなど、十分なコミュニケーションを取りながら進めていくことが大切です。
Ⅱ. 投資回収への"焦り"は禁物
M&Aは「成長に向けた投資」であるため、投資の回収や資本効率をなしに語ることはできません。買い手企業側は、成約後に投資回収への責任感や緊張感を感じるのは当然のことです。上場企業であれば株主への説明責任がありますし、非上場企業の場合でも地元で相当に注目されていたり、譲渡金額を借り入れた銀行からの返済のプレッシャーを感じたりすることもあるでしょう。しかしながら、焦って拙速な改革を行うことは得策ではありません。「投資回収はする、しかし焦りは禁物」なのです。PMIにおいては、業績向上などの定量的な成果をあげることはもちろん重要ですが、それだけでなく、M&Aに関わる全ての人が「提携してよかった」と心から感じられることも大切になります。
そのためには、信頼関係が浅いPMIの初期段階で焦って拙速な変革活動に取り組むことや、過剰なマネジメントを行い完璧なコントロールを行おうとするなど、売り手企業の方から反発を招くような行為は控えるのが賢明です。売り手企業の方から信頼され、前向きな協力を得ることができなければ、継続的な成長を期待することはできません。
Ⅲ. "気遣い"という名の放任をしない
「相手企業を尊重する」姿勢は重要です。とはいえ、売り手企業単体としても、またグループ全体としても、成長していくために取り組まなければならない課題もあるはずです。そうした課題への対応について十分話し合いを持たず放任していては、「一体何のためにM&Aを実行したのだろうか」という事態を招きかねません。相手へ配慮を怠らず、対応して欲しい事項、進め方、スピード感について、両社で話し合いを重ね、適切な距離感で進めていくことがPMI成功の近道と言えます。
売り手側の心構え
当然ながらPMIは買い手企業が単独で実行できるものではありません。売り手企業の協力無しには、PMIを円滑に進め、両社の成長を早期に実現させることはできないのです。ここでは譲渡オーナー様や従業員の方に意識していただきたいポイントを3つご紹介します。
Ⅰ. 統合にあたって、譲渡オーナー自ら説明をしっかり行う
M&A後、まずは譲渡オーナー様が「M&Aを実行した理由」を全従業員に説明することが重要です。丁寧な説明が不足していると「M&A=乗っ取られたのではないか」と誤った認識が広がり、不安に感じる従業員の離職が進んでしまったり、「社長が会社を見捨てた」と不満を感じる従業員が出てきたりするケースも考えられます。一方の従業員の協力を得られないままでは、両社が一枚岩となってPMIの取り組みを進めていくことは難しく、結果として当初期待していた成長を実現することも困難になってしまいます。そのため、譲渡オーナー様が自ら「M&Aは会社を成長させるための決断。買い手企業とはシナジー効果も見込め、安心して任せられると感じたからこそ提携を決めた。どうか理解してほしい。そしてPMIに協力してほしい」という内容を発信していただくことが、なによりも重要なのです。その際、買い手企業側の経営陣も同席して、今後についての説明を行うことで不安を取り除くことも重要です。
Ⅱ. 不安やリクエストは"臆せず発信"する
コンサルタントとしてPMIの現場に携わっていると、売り手企業の方から「買い手企業へ提案・リクエストしたいことがあるが、あまり色々と言ってはいけないのではないか。」と相談を受けることが多々あります。買い手企業に対し、気を遣って本心を伝えられず、不安な気持ちを抱え込んでしまっては、いつまでも両社がお互いに心を開き、信頼関係を構築することができません。買い手企業側は、売り手企業の方々が感じられている不安に対して、できる限りの説明を行いながら信頼関係を構築していきたいと考えています。また両社の成長につながるような要望やアイデアについて、積極的に実現したいと思っているケースがほとんどです。そのため、売り手企業の皆さんが抱く不安や様々なリクエストは、臆せず発信いただくことが両社にとって重要です。
Ⅲ. "変わる勇気"を持つ
企業の成長のためには、売り手企業の"良いところ"は当然残しながらも、改善すべき点は改善する必要がありますし、多少なりとも「従来と変わる」場面が発生します。例えば業務フローが変更になる場合、初期には不慣れな為ミスが発生したり、慣れない部分で手間に感じたりすることもあるでしょう。しかし長期的な視点で考えたときに企業の成長に必要な取り組みであれば、従来の対応方法に固執するのではなく、"変わる勇気"を持って、変化を前向きに捉えていただくことも大切です。
「守り」の段階:現状維持と信頼関係の構築
M&A直後は売り手企業の関係者の不安や懸念点を解消できるようコミュニケーションを重ね、取引先や顧客との関係性を維持するためのポイントを把握しながら、売り手企業のビジネスが従来通りに回るよう"守りを固める"ことが重要です。誤った方法でPMIに取り組むと、様々なトラブルを引き起こし、M&Aで実現できる成果の発現を遅らせる要因となります。PMIにおいては「急がば回れ。」の精神で進めていくことが、結果として早期のシナジー創出・成果の最大化につながります。
「攻め」の段階:シナジー効果の実現
「守り」の取り組みが完了したのち、「攻め」の段階に移行します。「攻め」の段階では、売り手企業単体として、またはグループ全体としての業績向上のための取り組みを、売上拡大/コストシナジーの観点から検討し、実行していきます。攻めの取り組みを行うためには正確な現状把握や、売り手企業の従業員と本音で話し合える信頼関係が不可欠です。
Q1. 成約前は、どのような項目を確認すべきでしょうか?
確認が必要な項目は案件によって異なりますが、以下の5つはいずれの案件においても重要な確認ポイントです。
<M&A成約前に確認すべき5項目>
PMI推進チームに参加する人材の見極め
経理業務は、オーナー様の親族が担当されているのか。その場合、オーナー様と一緒に退任されるのか?
管理会計は導入されているか?
適切なKPIが管理されているか?
経営ビジョン・中期経営計画はあるか?
Q2. PMIは外部の専門家ではなく当事者だけで進められるのでしょうか?
M&Aの当事者である両社のご担当者のみで進めていただくことも可能です。一方で専門家のサポートを受ける場合には、
PMIを効率的に・効果的に進めていくためのアドバイスの提供
両社の橋渡し役としてのコミュニケーションのサポート
シナジー創出のための取り組みサポート
など、幅広くサポートを受けることができます。
クロスボーダーM&Aの弊社支援実績を紹介します(開示可能な事例を抜粋)。
株式会社カナミックネットワークによるTHE WORLD MANAGEMENT PTE LTDの株式取得に際して売手アドバイザーとして支援
カナミックネットワークグループは、今後の成長戦略としてM&Aを積極的に推進し、ヘルスケア分野、保険サービス分野、リアル店舗からITサービスまで、事業ポートフォリオの拡大を掲げており、このたび、主に販売管理や在庫管理、会計管理などのバックエンドシステム導入コンサルティングサービスを提供しているTWM社の株式を取得しました。TWM社のバックエンドシステムと、カナミックネットワークグループが保有するフロントエンドシステムの開発力を組み合わせることにより、TWM社の顧客をはじめとするシンガポールの企業に、総合的なITシステムを提供することが可能になります。また、シンガポールを拠点にASEAN諸国をはじめとした東南アジアへの展開も見込んでおり、今回のTWM社の株式取得は、カナミックネットワークグループの成長戦略『カナミックビジョン2030』の「Phase4:海外展開」への本格的な着手ともなります。
シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、THE WORLD MANAGEMENT PTE LTD社側の売手アドバイザーとして、株式売却のアドバイス及び実行支援(クロスボーダーM&A支援)を提供しました。
カナミックネットワークリリース:https://ssl4.eir-parts.net/doc/3939/tdnet/2514343/00.pdf
国分グループによるシンガポール食品卸売事業会社San Sesan Global社の株式取得に際して売手アドバイザーとして支援
国分グループは、第11次長期経営計画において海外事業の「基幹」事業化を掲げており、アセアン事業はその柱の1つです。アセアンエリアにおける経済、物流、情報の中心であるシンガポールは、当社アセアン事業の中核地と位置付けています。現在、同国においては、アセアン統括会社であるKOKUBU Singapore社、食品卸売事業会社であるKOKUBU Commonwealth Trading、低温物流会社であるCommonwealth KOKUBU Logisticsが事業を展開しており、アセアン地域と日本をつなぐ食のネットワークの構築に向けた体制の強化を推進しています。今般、シンガポール卸売事業をより強固な体制にすることを目的に、San Sesan Global社の株式を取得致しました。
シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、 San Sesan Gobal社側の売手アドバイザーとして、株式売却のアドバイス及び実行支援(クロスボーダーM&A支援)を提供しました。
国分グループリリース:https://www.kokubu.co.jp/news/2024/detail/0805100000.html
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000139201.html
ラバブルマーケティンググループの東南アジア地域でのクロスボーダーM&Aを包括的に支援
日本国内においてSNSマーケティング事業を行っているラバブルマーケティンググループは、海外事業の立ち上げおよび拡大(クロスボーダーM&Aを含む)を成長戦略のひとつに掲げており、東南アジアに進出する企業のマーケティングの支援と東南アジアからのインバウンド需要の獲得を目的として2023年3月に、タイの現地法人であるDTK AD Co.,Ltd.の発行済み株式の49%を取得し、子会社化することを決定しました。
シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、ラバブルマーケティンググループがDTK AD Co.,Ltd.を買収する際の包括的な実行支援を提供しました。
ラバブルマーケティンググループリリース:https://lmg.co.jp/news/information_20230322/
NTTデータ先端技術株式会社と印・AlgoAnalytics社との資本業務提携を支援
NTTデータ先端技術株式会社は、多数のデータサイエンティストを有し、機械学習技術をベースにAI全般を強みとするAlgoAnalytics Pvt. Ltd.と、先進技術領域における取り組みの拡大に向けた資本業務提携を行うことで2023年5月16日に合意しました。
シンガポールを始めとするアジア圏への海外進出やクロスボーダーM&Aを支援するコンサルティングファームであるGlobal Gateway Advisorsでは、本件における、両社の業務資本提携におけるアドバイス及び実行支援を提供しました。
NTTデータ先端技術株式会社リリース:https://www.intellilink.co.jp/topics/news_release/2023/051600.aspx
PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に行われる統合プロセスであり、M&Aの成功を左右する重要な要素です。PMIは単にM&A後に行われるものではなく、M&Aの検討段階から準備を始めるべきもので、統合計画や100日プランなど計画的なアプローチが重要です。また、「守ってから攻める」を鉄則とし、まずは売り手企業のビジネスを安定させてから、シナジー効果の実現に向けた取り組みを進めることが肝要です。PMIには経営体制や組織の統合、業務システムの統合、会計・財務分野の統合など、多岐にわたる実施項目があります。これらを進める上では、買い手・売り手双方の適切な心構えが必要です。
買い手側は「自社の当たり前の強要をしない」「投資回収への焦りを持たない」「気遣いという名の放任をしない」ことが重要です。一方、売り手側は「譲渡オーナー自らが説明をしっかり行う」「不安やリクエストを臆せず発信する」「変わる勇気を持つ」ことが大切です。PMIを通じて、両社の強みを融合し、シナジー効果を最大化することができれば、M&Aによって企業価値を大きく向上させることが可能になります。PMIは時間と労力を要するプロセスですが、その成功がM&A全体の成功に直結することを忘れずに、計画的かつ丁寧に進めていくことが重要です。
当社では、こうしたPMIの重要性を深く理解し、M&A後の統合プロセスを成功に導くための専門的なPMIコンサルティングサービスを提供しています。豊富な実績をもとに、クライアントのニーズやM&Aの背景に応じたカスタマイズされた統合戦略を策定し、計画から実行、定着まで一貫してサポートいたします。
当社のPMI支援は、以下の点において高い評価をいただいております:
統合計画と100日プランの策定支援:事前準備段階から入り込み、PMI開始直後の重要な意思決定を的確にリードします。
経営・組織・業務・IT・財務の一体的統合サポート:各分野における専門家が連携し、全社最適の視点からスムーズな統合を推進します。
コミュニケーションとチェンジマネジメント:企業文化の違いや心理的障壁にも配慮し、現場の納得感を醸成しながら変革を実現します。
PMIにおけるリスクの洗い出しとモニタリング:想定される課題を先回りして把握し、プロジェクト全体を俯瞰したリスク管理を実施します。
PMIの成功は、一朝一夕に実現できるものではありません。だからこそ、専門家の伴走が非常に有効です。当社のPMIコンサルティングサービスを通じて、M&Aの成果を確実に企業価値向上へと結びつけていきましょう。まずはお気軽にご相談ください。貴社の状況に最適な支援体制をご提案いたします。