消費財・小売

東南アジアの消費財・小売市場は、伝統的小売、近代的小売、ECの3つのチャネルが共存する独特の構造を持ち、2030年に向けて大きな変革期を迎えています。

タイにおける伝統的小売の役割

タイの小売市場において、伝統的小売は依然として重要な役割を果たしています。政府による保護政策や、大手チェーン店が対応しづらい消費者ニーズへの柔軟な対応が、その存在感を維持している要因です。例えば、トイレットペーパーやタバコの「バラ売り」、時間外でのアルコール販売、常連客への「ツケ払い」など、伝統的小売特有の「融通」が消費者から支持されています。さらに、デジタル化によってPOSデータの取得が可能になれば、消費財メーカーにとっても伝統的小売の80万店舗に及ぶネットワークは魅力的な販路となり得ます。このように、タイの伝統的小売は近代的小売やECと共存しながら、独自の価値を提供し続けています。

インドネシアの小売市場の変化

インドネシアの小売市場は急速な変化を遂げており、2026年までに年平均成長率5％で拡大すると予測されています。市場規模は2022年時点で約41.2兆円（現在の為替レートでは約50兆円）に達し、日本の小売市場の約3分の1の規模まで成長しています。この成長の背景には、人口増加、中産階級の拡大、そしてデジタル技術の普及があります。特筆すべきは、EC化率がシンガポールを超える水準に達し、オンライン広告費が全広告費の半分近くを占めるなど、オンライン化が急速に進んでいることです。一方で、伝統的小売もリアル小売のシェアの過半を占める重要なチャネルとして存在感を保っており、大型小売業態が伝統的小売との協業を通じてネットワーク化を図るなど、独自の市場構造が形成されつつあります。

ソーシャルコマースとライブコマースの台頭

ソーシャルコマースとライブコマースは、東南アジアの小売市場において急速に台頭している新たな販売チャネルです。特にインドネシアでは、デジタル技術の普及と消費者のオンライン購買行動の変化により、これらの新しい形態の商取引が注目を集めています。ソーシャルコマースは、SNSを通じて直接商品を売買できる仕組みで、顧客との関係性構築や低コストでのブランド展開が可能となります。一方、ライブコマースは、リアルタイムの動画配信を通じて商品を紹介・販売する手法で、インタラクティブな購買体験を提供します。これらの新しい販売形態は、伝統的小売やECと共存しながら、消費者により身近で魅力的な購買機会を創出し、インドネシアの小売市場の多様化と成長を促進しています。